2015年11月5日木曜日

ケリー・リンク『マジック・フォー・ビギナーズ』

何と言うべきか、超いかしている。大変いい。発想そのものの不可思議は勿論、結構な量の奔放さや可笑しさを備えた発想を、空回りさせる事もなく無駄遣いする事もなく巧い具合に鞣して魅せる言葉の軽妙さまで。門構えは普通、入り口は既に奇妙、中はもう、見慣れぬ異常さでいっぱい。普通さや平穏を縦横無尽に突き抜けて行く。
不可解で、超いかしていて、可笑しさを一つ一つ捉えて自分自身の当然に当てはめる暇もないほどの刺激に溢れていて。けれどそこにある苦しみやら悲しみやら、痛みやらもどかしさやら興奮は、随分と近しいもの。何だか妙に馴染む。ふとした瞬間に紛れ込む連想の脈絡のなさ、光景より連想する光景、連想したその光景(記憶であったり妄想であったりする)の出処の見境のなさ、突拍子のなさ。意外なほどの近しさを備え、胸に迫って来る。
言葉が魅せ続けるそこは、自分自身の当然の範囲などをゆうに超えた、見慣れぬ不可思議さに満ちた場所であるはずなのに、随分と近しい。随分な近しさが、随分な強さを備え、胸に迫って来る。そしてその感覚がまたすごくいい。掴み難さの中、それらだけがおさまるべき場所に落ちて行く。何と言うべきか、超いかしている。


マジック・フォー・ビギナーズ (ハヤカワepi文庫)
ケリー・リンク
早川書房
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