2019年3月24日日曜日

村田喜代子『望潮』

人の生き死にの、凄まじさであるもの。生々しくて、恐ろしくて、愚かしくて、見苦しい。不可解で、当然で、逞しくて、厚かましい。人の生き死にの、凄みとなるもの。醜くて、汚くて、美しくて、艶かしい。激しくて、強烈で、快くて、不快で、不気味な。生きる事と死ぬ事の、雑多さ、大変さと言うべきもの。
それが自分であったとしても、おかしくはない、と思う。自分がそう言った、人の生き死にから洩れ出る不可思議さのようなもの達と、いつか遭遇したとしても、まるで不思議ではない、と思う。いつか自分も、そう言った不可思議さを、目の当たりにする事になるかもしれない。その内に、彷徨い込んでしまうかもしれない。みな決して、踏み外してしまった訳ではない。踏み外して、その結果、戻れなくなってしまった訳ではないのであって。そこへなど、簡単に行けてしまうと言う事。不可思議さなど、そこここにあるのだと言う事。生きていれば、当然に死があり、暮していれば、闇など、隙間など、当然に生じてしまうのだと言う事。
村田喜代子作品の魅力の一つ。「つ」や「く」の字に曲がったお婆さん達。人の生き死にの複雑さや雑多さを、その姿、その存在そのもので物語るかのような。逞しくて図太くて、不可思議で不気味で、一筋縄ではいかないお婆さん達。凄まじい煮詰まり具合。よしあしなどでは語り切れぬ、忘れ難いお婆さん達。


望潮
望潮
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村田 喜代子
文藝春秋
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