森茉莉の世界に、蠱惑的でないものなどない。森茉莉が書くものの中に、蠱惑的でないものなどない。恐らくはもう、何度も読んでいる。何度も味わっている。何度も何度も、同じ言葉で、或いは僅かに違う、けれどみな等しく魔を含み、甘やかな毒を秘する言葉を以って、繰り返し語られ続けるそれらを。自分はもう、幾度となく、楽しんでいる。
何度読んでも、楽しむ事が出来るそれら。何度味わっても、飽きる事なく美味と感じ、ご馳走であるそれら。読むほどに濃さを増し、深みを増し、色彩を増し、満ちて溢れ、滲み出し、不明瞭さを増し、妖しくかすみ、妖しくぼやけ、濃艶な魅惑と化して行くそれら。飽きる事なく、幾度となく堪能する。幾度となく反芻する。
森茉莉の世界に、蠱惑的でないものなどない。森茉莉が書くものの中に、蠱惑的でないものなどない。徹底して。蠱惑的であるものしか、存在していない。その凄さ。厚く濃い、靄。何一つ、余計な事をしたくない。自分は森茉莉の世界を、ただ楽しんでいたい。ただ享受していたい。