2018年10月5日金曜日

高橋たか子『人形愛』

この濃さが堪らない。この濃密さ。色濃さ。濃艶さ。酷く暗く、妖しく、官能的。何もかもが予兆めいている。何もかもが象徴めいている。重要な夢想。現実を侵食するほどに深く、貪欲な。探り、見つけ、目覚めさせるために。知り尽くすために。辿り着くために。必要な夢想。 予兆めいたその何もかもが、自らの内より出でたものであると言う事。不意に現れた光景を、感覚を、知っていると確信する、それらが自らの奥底より、自らにさえ介入し得ぬ深みより出でたものであると確信する、自らが既に生きた事のある光景であり、感覚である事を確信する、不可思議な当然さについて。
到達する目前の張り詰めた危うさと充実、完遂するまで、どこまでも貪欲に求め続けるものの底知れぬ切実さ、辿り着けると自ら確信するが故に持つ強さと落ち着き。酷く蠱惑的。表面にまとう理性、けれど滲み出ている。内より滲み出ているものの、その凄み。恐ろしいほどに、不気味なほどに、蠱惑的。
死が溜まると言う表現の素晴らしさよ。空間に、世界に、自らの内に、自らの目前に、滞るものを、充満するものを、立ち上るものを、表現する言葉の素晴らしさよ。達する寸前の充実と高まり…妖しくて、危うげで、退廃的で、美しくて、深遠で、明晰で、密やかで、『人形愛』の高橋たか子が自分は一番好きかもしれない。



人形愛 (1978年)
人形愛 (1978年)
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高橋 たか子
講談社
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