2022年7月22日金曜日

イタロ・カルヴィーノ『冬の夜ひとりの旅人が』

ながい、ながい旅であった。振り回されたと言ってもいい。読むことの不可避性であるかのよう、あちらこちら、次々と連れて行かれてしまう。なすすべもなく物語の中へ、物語の外へ、はじまりと中断の繰り返しを繰り返し、断片と断片の間を繋ぎ合わせるように、右往左往、宙吊りにされたまま。 
物語が物語を誘発する。読むことへと、或いは書くことへと無際限に誘う。乱立する無数のはじまり。書くことと読むこと。書く者と読む者。書物と読者、或いは書物と作者。どのようにして読み、またどのようにして読まれるのかと言うこと。或いはどのようにして書かれ、またどのようにして書くのかと言うこと。世界と結び得る関係性の数だけ、交わり方の数だけ、物語ははじめられる。 
無論、読んでいる自分は読者であり、読者として体験する。読むことを、読むことの快楽と言うべきものを。けれど向かっているのは、語り手によって幾度となく向かわされるのは、むしろ書くという行為の方、書くことの不毛さや困難さ、膨大さの方へではないか。読み手が読むことを通じて接近する場所は。作家の、書くと言う行為と、その内にある苦しみと無数さそれ自体なのではあるまいか。 
はじまりの無数さに対して、おしまいの収束の、選択肢の狭さと言うか、狭さのその当然さがいい。