2022年10月15日土曜日

『川端康成異相短篇集』

危うい所まで行く。生の、その不可解さ、異常さと言うものの、或いは死の。するりと滑らかに、静かに肉迫する。官能的な体験。陰鬱なまでに艶かしく、肉感的な重さと存在感を以って充満するその領域に肉迫すること。理路整然と不気味なそこを垣間見ること。 
死と隣接する言葉。隣接するどころか、言葉は死を抱き上げ、婚姻を結びさえするのだ。婚姻を介して言葉は死を所有する。死へと侵入する。赤色を用いて世界そのものすら死で染め上げてしまう。無言の領域…〈言葉の飢餓〉、〈言葉の飢餓は堪えられまい。〉ひどく危うく、恐ろしい。もう戻っては来られないだろう。 
月の光の白さにせよ〈水のなかへ沈んでゆくよう〉な歌の尾の低さにせよ花嫁の顔の〈透き通る蠟のような美しさ〉にせよ編まれ結びつけられた黒髪の黒の濃さにせよ曲玉の青と音にせよ、それらは鮮やかであり過ぎるのだ。異常を象徴するのではなく、異常そのものであるかのような鮮やかさ。そこから向かうのだ。その鮮やかさから降りて行く。死へと、生のその不可解さ、異常さと言うものの方へと、肉迫するほどに、沈み込んで行く。