2019年5月17日金曜日

金井美恵子『お勝手太平記』楽しい再読の記録

まったく尽きる事がない、全然止まらない。アキコさんの手紙。次々と思い出し、連想し、気になって、あちこち飛んで、横道にそれ続け、脱線に次ぐ脱線。そもそもの話が思い出せない。すぐ遠くに行く、見失う。やがて戻って来たり、戻って来られなかったり…。そんなお手紙、どうしたって時間を喰う。読めば当然、時間を喰われてしまう。はた迷惑で、厄介で、楽しくて、豊かで、ひどい。悪口に皮肉に当て擦りも山のように。
如何に多いか、と言う事であって。気になる事や、可笑しな事や、呆れるような事や、思い出す事が。身近と言うか、周りに、近くに、それもそこかしこに、自分の内に。如何にたくさんあるか。思い違いも、記憶違いも、勘違いも、たくさんあって、如何に尽きないか、尽きる事がないか…。
アキコさんのその饒舌と、話題の数々に、自分は母や祖母やおじいさんや義母や伯母たちの事を思い出す…。彼等彼女等に対する苛立ちや呆れた事やうんざりした事や、妙に感心してしまった事や、好感や不快感や嫌悪感や、笑いや羨望、などと言った事などと共に、諸々思い出す…。それも一人一人思い出す、と言う訳ではなく、何人かが一緒くたになっていたり、大分曖昧になってしまっていたりするイメージとして、印象として、思い出す…。


〈記憶は自由奔放に広がったり深まったりするのに、思い出はいつも平板で平凡です。〉 〈非凡とまでは、もち、いわないけど、多少大変だったりしたアレコレがあったって、思い出として、それを喋ったり話したり、書いたりすると、それがみんな平凡でありふれたものに、みるみる変化して行くじゃありませんか。〉



お勝手太平記
お勝手太平記
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金井 美恵子
文藝春秋
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