2019年6月22日土曜日

矢川澄子『受胎告知』2019年の記録

信じ難いほどに、驚くほどに、綺麗で、貴重で、清澄。拠り所を持つ者達の。自らを守る、完全な庇護者を持つ者達の幸福。自らを理解してくれる、完璧な存在の庇護下。豊かで、安らかで、満たされている、蜜月めいた、幸福な空間。
その存在の大きさ、自らが、すっぽりと収まってしまうような。そこにいれば、何も不足する事がない、と言うような。自らの求める何もかもがそこにある、と言うような。絶対的な安心感。それは本当に稀有で、恵まれていて、貴重なものだ。汚さがないと言う事。何一つ他に必要としない、何一つ貪欲になる必要がないと言う事。
どこまでも澄んだ喜びと幸福。奇跡めいている。淫すると言う言葉はその蜜月を語るに際してこの上なく相応しく、けれど、淫すると言う言葉を以って語られてなお、その蜜月が、どこまでも清澄なものであると言う稀有さ。だからこそ、生じた。生じ得た。あの明るさ。綺麗で、軽やかな、あの。
「湧きいづるモノたち」と言う、悲しい綺麗さ。自らが見つけた拠り所。自らが願った通りの、大きな大きな拠り所。享受しながら、けれど迷っている。確かに安らぎ、救われながら、それでも、問いかけ続けている。その存在の大きさに、すっぽりと隠れてしまいながら、ずっと、考え続けている。心細く、不安な事を。こわれてしまった者の事を。考え続けたまま、自らが消えてしまわぬよう、せめてしがみついている。重たい綺麗さ。
自分が所有する本の中で、最も綺麗な本。



受胎告知
受胎告知
posted with amazlet at 19.06.22
矢川 澄子
新潮社
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