2019年7月5日金曜日

ジュリアン・グラック『アルゴールの城にて』再読の記録

静かに、緩やかに。鮮烈に、急速に。確実に近付いて行く。敢然と、確実に向かって行く。何かが、恐ろしく、強大な、何かが始まる前の落ち着かなさ。疑いようもなく、待機状態にあると言う不穏さ。張り詰めている。行き渡っている。明らかに、それは起こる。その避けようのなさ。免れようのなさ。逃れる事の出来なさ。何もかもが必然的であると言う事。唐突であり、不吉であり、濃厚な、あらゆる事象と事柄の一つ一つが。予兆であると言う事。意味を含み、確信に満ち、見過ごせぬ重さを持つものであると言う事。変えようのない、物語の宿命を示唆するものであると言う事。掴み難く、確かめ難く、けれど強烈な印象を残して流れ行く事象と事柄の、その一つ一つによって。物語はどこまでも高まり行き、深まり行き、立ち戻る事なく、確実に進み行くのだと言う事。
あまりにも厚く、重く、強靭な連なり。重ねられて行く。間隙なく、満たし尽くすかのように。余すところなく、再現し尽くすかのように。幾重にも、尽きる事なく、重ねられて行く。言葉。物語る何もかもが、予兆と化すように。不穏と化すように。確信と化すように。静寂さえ、空白さえ、重厚に響き渡るように。緻密に、執拗なまでに濃密に、重ねられて行く。

響いて来る。重々しく、緩慢に。鋭く、冷酷に。絶える事なく、途切れる事なく。振り返る間も無く。竦んでしまい、何も出来ない。止まる事さえ出来ない。響き、迫り来るその重さを、その強さを、ただ感じ続ける事しか。どこまでも高まり行き、満ち行く不穏に、ただひたすらに圧倒され続ける事しか。


アルゴールの城にて (岩波文庫)
ジュリアン・グラック
岩波書店
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