2019年7月5日金曜日

皆川博子『辺境図書館』

耽溺。誘われるまま、深く潜り続ける。皆川博子の内に在るもの達。皆川博子が溺れ、己が身を沈めるもの達。女王の愛するそれら。愛してやまぬそれら。いずれも酷く蠱惑的。そこにとどまりたいと、心底願うような。その残酷さの内に。その美しさの、その自在さの内に。とどまり続け、そここそが、自らの在るべき場所であると、自らの求める世界であると、確信してしまうかのような。蠱惑的な幻想の数々。
皆川博子と言う沼の深遠さよ。女王の世界には、皆川博子と言う、沼の如き深さと抗い難さを備えた、濃艶な闇の中には、恐ろしく多くのものが棲んでいる。佐藤亜紀も、ジュリアン・グラックも、野溝七生子も、アンナ・カヴァンもいる。矢川澄子も、高橋たか子も、山尾悠子も、久生十蘭も、多田智満子も、尾崎翠も、倉橋由美子もいる。確かにいる。そこには確かに棲息している。最早魅惑と化して。数多の魅惑が、耽読した本の数だけ、棲息している。女王の世界は深く暗く濃く恐ろしく美しく、底が知れない。

アンナ・カヴァンやジュリアン・グラックや佐藤亜紀など、皆川博子の愛する本を、自分もまた所有していると言う喜び。その世界の中に、自分の愛する人々が、数多く、高橋たか子や山尾悠子や矢川澄子が、その濃密な闇の内に、数多く、棲息していると言う幸せ。そして女王の言葉によって、愛に満ち、静かに、深遠に煌めくその言葉によって、新たな本(それもとびきり妖しくて恐ろしくて豊かな)に出会う、未知の魅惑を知り、存分に感じると言う楽しさ。


辺境図書館
辺境図書館
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皆川 博子
講談社
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