2021年5月12日水曜日

『矢川澄子ベスト・エッセイ 妹たちへ』

内へ内へと向かうほど、より強く、鋭く煌めく。頑なであればあるほど、その煌めきはより鋭さを増す。不可思議で、静かで、とても綺麗な。沈黙さえ、煌めいている。秘して黙した言葉さえ、鋭く煌めいている。定めている、決めている、自ら選び、殉じている。そう在るべきとしている。許さない事の、許していない事の多さ。主に自らに対してだが。小さく、ちっぽけであると言う。まずはそこに起因すると言う。ものごころついてこのかた、その世界観を生きて来たのだと。潔癖なまでに、今なおそうである事の、はじまりについて。
或いはアリス、不滅の少女について。アリスを不滅の存在たらしめるまなざし、その明澄さ、知性の高く、厳密である事において、極めて稀有なものである、そのまなざしについて。或いは森茉莉、及びモイラ、アナイス・ニン。自分とは異なる存在の、その現実、内面にあるものを見もせず、認めもせず、無理解、身勝手に解釈し続ける者たちの貼るレッテルや、浴びせる嘲笑を、やすやすと、いとも簡単に超えてしまい、無効化し、強く、堅牢に、けれどどこまでも魅惑的に輝き残り続ける、かの女性たちの作品たちについて。

〈あれほどの文学者でありながら、何故か徹底して自罰傾向の強いひと〉と言う山尾悠子の言葉を噛み締めつつ読む。常に内へ内へ、向かっている。内にのみ、向いている。内にてすべて、し終えようとしている。とても厳しいと思う。自らに対しては、特に。多くを課しているかのよう。多くを許せずにいるかのよう。その審美眼、嘆きの悲しい事。求めるもの、そう在ろうと願う存在の高さ、美しさ。言葉は親しい者たち、愛するものたちを語る時にのみ、わずかに緩み、ほころぶ。