2019年6月1日土曜日

ジュディ・バドニッツ『元気で大きいアメリカの赤ちゃん』

奇妙で不気味でひどく嫌。ひどく嫌なお話ばかり。なかなかの不快さ。嫌悪する。うんざりする。けれどそこかしこにあるものだ。この嫌、は。そこかしこにある鈍さであり、愚かしさであり、浅はかさであり、浅ましさであり、酷薄さであり、醜さであり、幼稚さであり、無神経さである、嫌。それ故に尚更、見せつけられて疲弊する。
ことごとく間違える。把握しあぐねる。そうではない。それではない。余計な事ばかりする。余計なお世話でしかない事の多さ。巨大なお世話。肥大化した成れの果て。今それだけはしてくれるな、と思うような事ばかりする人々の事。今それだけは言ってくれるな、と思うような事ばかり口にする人々の事。厚かましくて、偉そうで、独善的で、言い訳がましくて、綺麗な言葉を用いて取り繕う事が異様にうまい、そこかしこに大勢いる人々の事。
相手を不幸にするだけの選択ばかりする。何もわかっていないし、わかろうとしない。何も見えていないし、見ようとしない。本当はわかっていたとしても、わかっていないふりをして、自らを誤魔化す。正当化する。嘘に逃げ込む、すがりつく。様々な嫌。不特定多数の嫌。認めたくないと思ってしまうような。そんな事があるなんて。考えたくもないと思ってしまうような。けれどそんな事は本当にそこかしこにあるのだろうと思う。自分もその一人かもしれないし、そう遠い世界のお話と言う訳でもない。奇妙で不気味でひどく嫌で、だからこそ、目を背ける事が出来ないお話ばかり。
奇妙で、不気味ではあるけれど、どぎつくはない。鋭くて、辛辣ではあるけれど、強烈ではない。静かで、理知的で、過剰さのないやり方。美しささえある。官能的でさえある。



元気で大きいアメリカの赤ちゃん
ジュディ バドニッツ
文藝春秋
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