2020年5月29日金曜日

エイモス・チュツオーラ『やし酒飲み』二度目の記録

声音を変え、調子を変え、強弱をつけ、緩急をつけ、身振り手振りも交えるような、多彩な語り口。面白い。二度目だけれども、多分何度読んでも新鮮に面白く感じると思う。自分の方に引き寄せて読む事をやめる。抗わない。振り回されても気にしないし、そもそも気にならない。ただ聞くようにして、読む。恐らくは聞く度に異なる類のそれ。語られる度に、異なる姿となってしまう類のそれ。口伝のそれ。
魑魅魍魎、生も死も、生者も死者も、神も神話も死神も精霊も含む豊かさ。容易く内包する豊かさ。途方もない。そりゃあ到底おさまらないと思う。たった一つではない。一つだけで済むはずがない。そりゃあ読む度聞く度姿も変わると思う。まるで大勢に聞かせているかのような、無数の相手に口伝えしているかのような、その語り口。
すっかり引き込まれてしまう。すっかり聞き入ってしまう。見慣れぬ決まりや法則や掟の多さ。人も、人でないものも、自在に見えて、やたら律儀に守る。やたら律儀に順守する。その違和感のなさ。語り手の言葉に夢中で、平然と受け入れてしまう。戸惑う間隙もない。すっかり連れ去られてしまう。

すっかり幻惑されてしまう。錯視めいた刺激。以前と違うと、読む度聞く度異なると、すっかり幻惑された自分が勝手にそう感じているだけなのかもしれぬ。