2020年5月5日火曜日

皆川博子『愛と髑髏と』

澱んでいる。黒々と溜まっている。重く、凄惨に滞り。沈殿している。溜めて行くほか、なかったもの達。消化する事も、吐き出す事も、こぼす事も出来ず。内に沈め、押し留め、溜め続けるほかのなかった、叫びであり、絶望であり、諦め。内にて押し留め続けたが故に、妖しく歪み、危うく、後ろ暗く、より密やかなものと化した、悪意であり、願いであり、欲望。
生に在りながら、自らの在るそこに馴染む事の出来ぬ者達の、それら。拒まれ、遠ざけられ、閉じ込められ。現において、異様とされたもの達、不都合で、厄介で、醜いと、疎まれ、蔑まされ、軽視され続ける彼等の。現では果たし得ぬ、それら。孤独であり、怒りであり、頂きである、それら。避けられない。抗い難く、果たされるまで、どこまでも膨らんで行くような。落ちて行く事こそ、至福。そこにしか、ない。生にはなく、何も叶わず、そうするほか、ない、と言うような。

悪夢が物語る、現の不条理さ。確かに潜んでいる。めくってみれば、すぐに醜悪で、すぐに惨たらしい。犠牲と痛み、諦めによって保たれ続ける日常の危うさ。すぐにでも、崩れてしまえる。崩れてしまう事こそが、自然に思える。最良であるように思える。悪夢が物語る、願望の甘美さ。現にある何よりも、蠱惑的に映る。どうしても、惹かれる。どうしても、そちらへと、落ちて行ってしまう。