魅入る事の、狂い出す事の、逃れ難さ、当然さ。あの日。密やかで、惨めで、後ろ暗く、それ故に甘美な。あの恐怖と高揚の記憶。既に始まっていたのだと言う事。既に決まっていたのだと言う事。予兆めいている。確信めいている。けれど完全には見えない。捉えられない。深部へと向かうほど、見えなくなる。物語は暗転するたび、酷く曖昧に、ぼやけて行く。美を求める者、或いは美、そのものである者、それぞれが濃さを増して行くために。それぞれが内へ内へと、沈み行くために。他の介入を、すべてを明らかにしようとする詮索の、一切を拒むかのような。重さ、色濃さ。それぞれが秘するものの深遠さを、複雑さを、そう簡単には解き明かせぬ類のものである事を物語るかのような。