2020年10月16日金曜日

矢川澄子『アナイス・ニンの少女時代』

手繰り寄せる試み。触れようとする試み。奇跡めいたものとしての認識。比類ない存在としての認識。強い共感と、傾倒と、憧憬を感じる。その距離の近さ。同化するかのような、その探り方の親密さ。自己との境界線さえ危ういように感じる。矢川澄子の文章。悲しいぐらいに、矢川澄子のものである文章。まるで自らを語るかのような。 
ここで見た姿も、ほんの一部分に過ぎない。重要であり、根幹と言うべき姿ではあるのだろうけれども。むしろその膨大さ、アナイス・ニンと言う存在の、掴み難く、推し量り難く、どうしても溢れ出てしまう事、決して枯渇してしまう事なく、豊かで、深遠であり続ける事、その複雑さを思い知る。

「あるモデルの話」…余技に属する類の一編。けれど確かに、気配はある。紛れ込んではいる。その煌めきの片鱗。ほんの僅かなものではあるけれども。確かに感じはする。