2020年11月20日金曜日

リディア・デイヴィス『ほとんど記憶のない女』再読の記録

 面白い。しばしば皮肉めくそのやり方、脈絡のなさ。唐突である事。連綿と、とりとめもなく続いてしまう事。時間にすれば、極めて短い、瞬間瞬間にしか過ぎない類の事。ぐるぐるぐるぐる、しあぐねるだけで、どこへも行き着かない事。平素意識する事さえないような事。平素何もなかった、に分類しがちである事。平素気にも留めていない、そうつぶさに考える事もないような事。酷く近しく、馴染み深い感覚である事。言われてみて初めて、自分にも心当たりがあると思い知らされるような事。何一つ見落とす事なく素通りする事なく取り上げて、調べ尽くすような試み。不安や不快感や居心地の悪さや恥ずかしさや嫌悪感まですべて。

例えば自分が何かを解き明かそうとして、仔細に、順序立てて考えようとするのだけれども、解き明かそうとすればする程、ドツボにはまってしまうと言うか、その解き明かせなさ、それが決して解き明かせないものである事がわかって行く、と言った類の事。考えれば考えるほど袋小路、その不可避性、不可能性に行き当たる、と言った類の事。律儀に対応すればするほどに、向き合えば向き合うほどに、ひっかかればひっかかるほどに、増殖し、どうにもならなくなってしまうような類の事。痛みと笑いと混乱と絶句。しかもそれは、存外なほど身近にあるものであって、日々の事であって、目下の事であって、ひどくうんざりしてしまう。