2020年12月17日木曜日

金井美恵子『アカシア騎士団』再読の記録

強く意識する。死と言うもの。その気配、逃れ難さ。立ち込めているが故に。濃く、厚く。立ち上って来るが故に。そこへ、死へ、達する事の、高まり行く事の快楽。最上の、魅惑と言うべき、その。或いは閉ざされていると言う事。繰り返しである事。迷宮めいている事。出口などと言うもののない事、途切れる事なく、続いていると言う事。或いはにおい。血の、肉体の、古びた闇の、淫靡な夢の、快、不快、いずれをも含む。あらゆる息遣い。満ちていると言う事。膨らみと腐敗。甘やかに、醜悪に、溶け行く事、朽ち行く事。おさまらず、崩れ、溢れ出る事…。気が遠くなるほどに、強く感じる。吐き気と幸福。
それは埋もれる事にも似ている。薄闇に横たわり沈み行く、眠りにも似ている。柔らかく、親密な死へ。その魅惑と言うべき死を含み、匂わせる濃密な暗がりへ…。読む事の、生き直す事の、重く、気怠く、憂鬱な喜び。苦しみを伴う、鮮烈な、唯一無二の、喜びとめまい。

堆積する言葉と時間。死の気配、抗えぬ訪れ、誘惑。塵芥、ほこり、饐えたにおい。腐蝕、汚穢。快楽。幸福。煌めき。それも鋭く、獰猛な。熱。痛み。柔らかで、甘やかで、残忍な。膨らみと高まり。めまい。滅び。魅惑であり過ぎる。『アカシア騎士団』は、自分にとって、あまりにも魅惑であり過ぎる。


「暗殺者」、「永遠の恋人」…濃密に感じる死。獰猛で、残酷で、唐突で、柔らかで、抗い難く、逃れ難く、あまりにも蠱惑的な。魅惑としてのそれ。いずれも猫であるそれ…。