2021年1月10日日曜日

金井美恵子『春の画の館』

過剰なまでに、獰猛なまでに、象っている、象徴している。死を、性を、肉体を、快楽を、夢を、欲望を、眠りを、愛を、まるでそれ自体であるかのように、そのままの、剥き出しの、まさしくそれそのものを提示するかのように。現している、物語っている。魅惑の存在。禍々しく、輝かしく、示し、露にし、物語り続ける事で。読む者を魅惑し続ける存在。博物館めいた、完結している、一つの、装置のように。魅惑し続ける、薔薇色の…。 
規律と構造。儀式、罰。不変の、不文律の。決まっている、定まっている。厳格に、冷徹に。遵守され続ける、狂いなく遂行され続ける。無限に、繰り返し。不在の主。女中。生贄たち。逸脱より生まれる詩。不在であると言う事。増え続けると言う事。自己増殖し続けると言う事。空虚であり、充満していると言う事。溢れかえり、ひしめき合い、無数に流される事で、その存在を、規律と構造を守り、叶える、汚物、吐瀉物、血、塵芥、がらくたの数多…。 
過剰なまでに、目眩がするほどに、目撃し続ける、思い知り続ける。死を、性を、肉体を、快楽を、夢を、欲望を、眠りを、愛を。息づき、血ばしり、みなぎるそれら。春の画の館が自らの存在と、規律と構造を以って、禍々しく、輝かしく展示し続けるそれら。その実に残酷である事。醜悪で、淫らで、甘美である事。果てしなく増え続け、迷宮と化している事。