無数にあると言う事。既視感。その内に在ると言う事。すっかり混ざり合っていて、溶け合っていて、明瞭に分かち難く、けれど確実に唯一であるその一つに在ると言う事。その一つになると言う事。読む事で、感じ、生きる事で、混ざり合い、溶け合い、自らと化し、わたしになると言う事。熱のにおい、死のにおい。汚穢と腐蝕、崩れ行くもののにおい。記憶と欲望のねばつき、ねばついている事、粘着性、執拗さ。常に潤い、重く、絡み付いてくるような。枯渇する事なく溜まり続け、陰鬱に満たし、覆い尽くしてしまうような。そのすべてを感じる事。わたしとして。無数で唯一のわたしとして。繰り返し手渡され、生きて、生き直し、繰り返し続ける事。たまらないと思う。幾度となくそう思う。快楽。それも恐ろしく重厚な。高まる事の甘美さ、唯一無二のものである事の確かさ。それを語る事がそのまま、読む事の幸福を語る事であるかのような。
輪郭を、確固たる境界を所有する事のないまま生き直し続ける。必然を、ただ流されて行くように。不明瞭なまま鮮やかな、不穏なまでに鮮烈な感覚を生きる。不明瞭なままで感じ、確信する。無数にあって、同時に唯一のものである事を。思い知る事。強く、否応なく思い知らされる事。その無際限さ、迷宮めいている事、不毛であり、繰り返しであり、尽き果てぬ事を。
自分にとって、金井美恵子を語る事はそのまま、何故読むのか、読む喜びや快楽、或いは幸福そのものを語る事であるのだと、改めて、何度となく思い知る。確信めいた予感、恐らくはこの先も。この先も自分はまた、改めて、何度となく思い知るのだろう。繰り返し、繰り返し、何度となくそう思い知りながら自分は生きて行くのだろう。