2021年3月26日金曜日

松浦理英子『奇貨』

器用で、不器用で、頭でっかちで、七面倒くさくて、鋭くて、敏感で、繊細で、見逃さなくて、怜悧で、(主に自らに対して、自らの感情や欲望に対して)誠実で、直向きで、生真面目で、危うくて、気恥ずかしくて、好き。執拗なまでに詰めて行く感じ、好き。
こう、色々はみ出たりこぼれ落ちてしまってそのままスルーして来たようなもの達との再会のオンパレードと言った感じがある。こんなにも多いか、と思う。と言うか、何ならばほぼそうやって未処理のまま、形容する事も表現する事もなく見過ごしたり見ないふりをしてやり過ごしたりするものばかりで出来ているような気さえする。逐一向き合うには相当に厄介で面倒で疲弊しそうなそれら。けれどどこまでもこだわらずにはいられなかったりもするそれら。 
上手くいかない、そう綺麗にはおさまらない、もどかしくて、歯痒くて、存外なほどに泥臭くて、見苦しくて、滑稽で、自傷めいた行為にも等しい探求、けれどその自らの感情や痛みや欲望を無視せずに解き明かし続ける感じ、自らを容赦なく俯瞰する冷静さを以って理路整然と、読み間違える事もなく自らの嫉妬や羨望や親愛の念を理解して行く感じ、いい。得難いそれ。眩しくて魅力的で快いそれ。かくもしあぐねる自ら。求めるその居心地のよさや熱さの得難い事、貴重さのようなものを、自らが最もわかっていて、なお抑えられない感じ、かくもしあぐね、なおこだわり足掻いてみる感じ、悪くないと思う。何というか、癒える。