2016年5月20日金曜日

イタロ・カルヴィーノ『不在の騎士』

不在の騎士は誰よりも強い存在であった。その存在を証明し得るものを、自分自身が存在している事の証となるものを、ただ一つ持つそれを、遵守し続けた事によって。不在の騎士は誰よりも脆い存在であった。それ以外何も持っていなかった為に。他に何もない事。それのみを理由とし、証とし、在る事。大変怖い事だ。
突如として自分を失い、他と混合してしまうものの可笑しさ。枠を隠れ蓑に、区別のつかない与太を繰り返す連中のどうしようもなさ。ただ組み込まれているだけであったもの達の悲哀。彼等もまた何だか妙に近いと言うか。笑って通り過ぎる事の出来ない齟齬が沢山。その分悶々と悩み、間違え、探し続けるもの達の姿には安堵。
そして自分があると、気づいたもの達のたくましさよ。図太さよ。力強さよ。ここにいると、語り手よりいでた叫びもいい。徐々に近づいて来る物語。徐々にわかって行く語り手。距離は埋まり、道は繋がり。扉を開け、進んで行く快さよ。



不在の騎士 (河出文庫)
不在の騎士 (河出文庫)
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イタロ・カルヴィーノ
河出書房新社
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