2015年6月16日火曜日

金井美恵子『タマや』

家族や、所謂愛、と言ったものに縁が薄い人々(と、猫)を乗せて漂泊する部屋は、青臭い強がりでも、捨て鉢気味なものでも、投げやりなものでもない諦めと、熱く気だるげな倦怠感に満ち満ちている。身を奔る衝動さえ不毛と感じ、うやむやにしてしまうそれらは最早、全身に染み付いてしまったもの。息をするように自らの感情さえやり過ごす。奥底にまで染み付いた慢性的な諦めの選択。だがそれは決して冷たいものではない。熱くて、寂しくて、もわもわしていて、どうにもならないことへの、妙な面白さが湧き上がってくるような。
浮き草のような、どうしようもないその姿に覚えるのは、可笑しさと、言いようのない苦味。これで居心地が絶妙によいのだから大変タチが悪い。そして何より猫がいい。猫の気ままさがいい。食べて、寝て、産んで、鳴いて、なにものにも縛られずに生きる猫の気ままさが、脱力感溢れる彼等の寂しげな人生を、満更悪いばかりのものでもないように思わせてくれる。



タマや (河出文庫)
タマや (河出文庫)
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金井 美恵子
河出書房新社
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