2016年5月18日水曜日

タニス・リー『タマスターラー』

夜に満ちる香気を含み、物語は舞う。自在に。妖艶に。巡り続ける事の過酷さを。果てしなさを。試練の凄絶さを。覚醒の瞬間の、その煌めきの忘れ難さを。物語は伝える。業を。変化を。輪廻を。その深さを。醜さを。哀しさを。おぞましさを。皮肉さを。脱ぎ捨て、或いは耐え抜いた先に待つ、安寧と幸福を。その美しさを。豊かさを。不可思議さを。物語は見せる。甘やかに。残酷に。鮮やかに。己が身に刻み込まれたもの…嘆き、怒り、痛み、喜び、輝き。物語が誘う至福を貪り、得たもの。例え輪郭を失っても、生き続ける。それほどまでに彼等は濃く、強い。夜が残す夢のように。彼等は濃く、強い。

第七夜「暗黒の星」が特によかった。想像の羽根をはばたかせる…その飛翔の自在さ、壮大さ。その飛翔が描き出す情景の肥沃さ、艶麗さ。誘われるがまま、酔い痴れる。



タマスターラー (ハヤカワ文庫FT)
タニス リー
早川書房
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