愛猫の死によってわかったこと。突然悟った自らの命日、間近に迫った死、錯綜する思考。死に瀕した瞬間に見えた敵の姿。掴んだ実体、気付いたその名前。価値ある生還後、信仰はより自らに相応しい形へと、モリモリ強化されて行く。訪れた成田、闘い続けるものたちとの邂逅が引き寄せる幻覚は、現実を打ち砕く破壊力を備えたものではない。示したのはあくまでも控え目な共鳴か、多少の息苦しさ、わだかまりが残る。だが、言葉に脈打つ魂は、なにものにも屈することない、作者の生そのもの。自由を知り、自由に在る言葉の晴れやかさが快い。
『片付けない作家と西の天狗』
珍しく穏やかな短編集であったように思う。終結した論争に関しては、荒っぽい皮肉の嵐。だが仇敵については最早、その愚行の数々を記すのみにとどめ、生身のまま放置。自らの作り上げた世界、騒がしく、遊び心満載のその場所には登場すらさせない。狂気を描いた騒乱、騒乱ではあるものの、タチの悪い外敵のいないそこには、奇妙な長閑さが漂う。闘い終えた自らの姿。闘いべき敵のいない、自らと、愛猫たちの城。『金毘羅』執筆時の狂騒。悪意と怒りをたっぷりと吸い込ませた、郷愁の情景。愛すべきS倉。依然闘志尽きぬままの身、荒れ狂う生の雑多感が楽しい。
笙野 頼子
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