痛みを以て縛り、死の熱さを匂わす、陰惨な愛。残滓を漁るよう、繰り返し繰り返し営まれる、不毛で、切実な試み。反芻の沼に耽り続け、それがすべてになるまで。記憶は不在を糧に膨らみ、不確かさをまとうことで、よりその強さを増して行く。厚く、迷宮と化すほどに。甘く、蠱惑的に。自ら囚われることを、望み続けるほどに。
書くこと、言葉にすること。反芻を繰り返す時間に満ちる温度を。気怠さを。熱情を呼び覚ます匂いを。融解を促す不在を。物憂げな相貌を。行為のおぞましさごと食す愉悦を。愛を。滅びぬそれの快さと惨さを。横たわる死を。
その重さ、その危うさ、その激しさ。代替不可能な試みによるそれら。貪り尽くせぬ肥沃さに魅せられ、身を埋めるよう、読み耽る。
金井 美恵子
筑摩書房
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