娘は、「私」は、母の死を恐れ、母の孤独に怯え、その存在の重さから、幾度となく、逃げ出そうともがく。だが、それでもなお、断ち切れぬままの繋がりに縛られ、結局は母親の元へと、幾度となく、戻って来てしまう。目を背けあってもなお、互いの視線を何よりも強く感じる、二人きりの母娘。
生まれ落ちた感情をそのまま象るかのように、重く、暗く光る言葉。陰翳においてさえ、それを象る言葉は、そこに在った温度や感触まで、抱き締めるかのように。わだかまる思いを、解けることのない苦しみを抱えながら、同時に、温かさをも、心は捉える。不器用で、愛おしくて、存外なほど、心地よい痛み。
娘から母へ、「私」が語り続ける記憶、娘たちが持ち寄る、自らの母たちの記憶。包み隠すところなく打ち明けられた、自らの母を見つめる、それぞれの心。重なり合ういくつもの記憶と心、そこにある感情はやがて、わだかまり続けていた、すべての苦しみを癒すような、答えを見つけられずにいた、すべての問いかけさえ優しく溶かして行くような、柔らかな光へと変わる。矛盾、孤独、暗がりに届く光の抱擁、誘われた微睡の快さ。哀感を滲ませ、光は駆ける。温かく、寂しげな安堵を広げながら。
自らの苦しみより目を背けず、目を背けぬ自らより逃げ出さず、引き摺り、共に生き、もがき続けた果てに、たどり着いた光。哀感を、嬉しさを滲ませ、すべてを包み込むように駆ける、柔らかな風。溶け始めた苦しみを象る言葉、重く、暗く、直向きなものであったからこそ、終わりの眩しさは慕わしい。温かくて、快くて、立ち去り難い余韻。