2015年6月17日水曜日

鴨居羊子『わたしは驢馬に乗って下着をうりにゆきたい』

素晴らしく面白い。何という眩さ、すべてが煌々と輝いている。自らの思いを実現するための泥臭い努力も、流れるまま拭わずにいる涙も、多くの葛藤、多くの寂しさ、多くの哀感…最後まで敵として、明治の女として、自らを認めてくれることのなかった母親に対する、愛情の複雑さも、愛犬の死が生み落とした悲しみの純粋さも。湧き上がる思いを、思いのまま燻らせておくことを、萎ませてしまうことを許さぬ強さも。
漠然としている考えを、はっきりとしたものに、考えの内にある不明瞭さと向き合い、不明瞭な部分を明瞭なものに変え、考え自体をより強く、より頑丈な、いわば、自らの支柱へと変えて行く過程。それを繰り返すことによって強固なものとなった思いに基づき、その実現に向かってひたすらに走り続ける勇姿。何という眩さ、そのすべてが、その何もかもが、煌々と輝いている。全身に漲る自信はそのまま外へと放たれ、彼女を鮮やかに、そして力強く彩る魅力と化す。言葉より溢れ出る力のひたむきさ、いつまでもその中に身を置いていたいと思わせるような、瑞々しく快い奔流。華やかで、色豊かで、しなやかで、眩くて、もう、虜である。



わたしは驢馬に乗って下着をうりにゆきたい (ちくま文庫)
鴨居 羊子
筑摩書房
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