2016年6月26日日曜日

ジュリアン・グラック『シルトの岸辺』

不穏。静かに、けれど重厚に満ちて行く。張り詰めて行く。徐々に高まって行く。気配を、蠢きを感じる。不吉で危うげな胎動を感じる。漲るべき時を待つ熱の苛立ちを感じる。老い、腐り、悪臭漂う停滞の中で。薄暗く、廃れ、錆び付いた平穏の中で。落ち着かない。上手くいかず、折り合わず、ぎこちなく、不安定で、心許ない。
緻密に織り重ね。巧緻に織り交ぜ。不穏を緩みなく、間隙なく。不気味な予感。聞こえる。それは、響いて来るものであるように思う。波及するものであるように思う。そして根付き、予兆と化し、塗り替えて行くものであるように。
あの緊迫感。高ぶりの極致とも言うべき瞬間の。いつか訪れると、来る事をとうにわかっていた瞬間の。あの歓喜。熱く、愚かしく、切実な。何もかもがその誘いであったかのように。何もかもが意図を、同意を含んでいたかのように。

不穏を重ね。滅びへと繋がる情熱の脈動を奏で。必然さを奏で。滅びそのものの複雑さを奏で。醜さを奏で。高揚を奏で。克明に。重層的に。執拗なまでに。奏で続け。飲み込んで行く。佇み、眺める事を許さず。渦中へと。飲み込んで行く。



シルトの岸辺 (ちくま文庫)
ジュリアン グラック
筑摩書房
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