退廃に心を寄せ、その中に美を見出すが故に、異端と見做された子ども達。今や滅びつつある因習が、重んじられるべきものとして力を持っていた時代の、肉親にさえ疎まれ、軽んじられていた時代の、未だ息途絶えることのない、記憶の内に潜む、密やかな愉悦。酷く、不健全に崩れ落ちたものの美しさに魅入られた子ども達は、自らの心に生じた歪を、歪が発する欲望を、殺すことなく、育て続けていた。艶やかに濡れて光る悦びの痕跡、戦争という暗い影に彩られた空間に舞う、彼等の歓喜。重く、鈍い輝き、歪みは共鳴し、美しき闇へと沈む。
『たまご猫』
暗く、凄惨な闇の内に息づく、美しくも残忍な物語。不意に忍び寄る硬質な現実の裂け目、その奥に、物語はひっそりと、蠱惑的に蠢く。溢れ出す狂気、危うい欲望が生み落とす悲劇の、背徳に心埋める快さ。柔らかな微笑をたたえ、甘やかに、したたかに、孤独に寄り添うものたちの心を絡め取る。踏みとどまるもの、飲み込まれて行くもの、自ら身を委ね、落ちて行くもの。引き返すことの出来ぬ世界からの誘惑、浮かぶ相貌はみな美しく、だが至福は深淵にこそ、存在するように思う。
皆川 博子
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