狂気が映し出す幻想の美しさ。惨劇に浸る悦び、甘く、惨たらしい瞬間を待ち望む残酷な欲望に支配され、彼等は罪を犯す。背徳より溢れ満ちる悪意の、魔を秘めた淫靡な芳香に身を晒せば、悲しく、孤独な暗がりを生きる者たちへの憐れみなど、ただ醜悪に、腐り落ちて行くだけ。目の前の世界を覆い尽くす、狂気という淡い膜。現実であったはずのそこは、やがて甘美なる幻へと、毒々しく、妖艶に、姿を変えて行く。
『蝶』
ひどく恐ろしい。まるでその存在そのものが、醜い傷痕でもあるかのように、平穏な世界にそぐわぬと、蔑まれ、虐げられた者たち。彼等はただ静かに、自らにしかわかり得ぬ愉悦を抱いて、足掻きもせず、抗いもせず、ただ静かに、慕わしく凄艶な闇の内へと、飲み込まれて行く。皮膚ではなく、魂に刻まれた痛み、孤独…彼等の陰翳に寄り添う、歪んだ悦びの甘さ。冷ややかな哀感に沈むべき絶望は、温かく、惨たらしい歓喜に。だからこそ、恐ろしい。哀しみを内包して生きる姿ではなく、狂気に身を委ね、愉悦に耽る姿をこそ、美しいと感じる。だからこそ、恐ろしい。