二人きりの世界、この世界において、二人きり。二人きりであるが故に、孤独はつきまとうが、二人であるが故に、その孤独は群がる闇に、飲み込まれはしない。放蕩、享楽、退廃、底知れぬ転落。陰惨さを帯びながら、それでも、すべてがどこか、滑らかで、喜劇めいた色をしている。互いを補完し合うよう、自分たちの、片割れの、自らの記憶を反芻し、記して行く傷ついた魂の遍歴。賑やかな静寂、沈黙が孕む不穏な息遣い、一人ではないことを示す、否定と肯定。二人きりの世界に満ちるは暗色、孤独に群がるそれとは異質の。外との隔たりを感じさせるほど異質の。抜けがけ、策略、復讐、愚行。汚れ、打ちのめされ、なお残る鷹揚な気だるさ。転がるように落ち、どこまでも流れ、彷徨い続けなければならない寂しさ。奪われた無様な心に宿るひたむきさ、聡く、鋭いものの不幸、哀感を生み落とす滑稽さ。その多くが、深く、濃密に心を絡め取り、流浪する魂より目を離すことを許さない。滲み出る傲慢ささえ憎めず、毒と重厚な愉悦を与え、心憎い。
何だか心憎さが憎たらしさを魅力に転じさせて、癖になるような小憎たらしさに…。
佐藤 亜紀
文藝春秋
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