狂気に彩られた残酷な真実への期待を高めるのは、朧げな記憶の内に潜む、不穏な気配。徐々に鮮やかさを取り戻す過去の情景。記憶を掘り起こすという行為に付きまとう恐怖と、甘やかな背徳。蘇る記憶のおぞましさ。絶望に浮かぶその表情は、艶美なる恍惚。互いの境目を侵し合う、生と死の交歓。生が内包する冷たさ、死が内包する温かさ。生と死が繰り返されることの惨さ。生を喜べぬものの哀しみが、重く、痛ましく、響き渡る。
『鳥少年』
背徳に寄り添う者たちの微笑。狂気と官能を宿した、歓喜の相貌。冷酷に、残虐に、満たされて行く欲望。匂い立つ悪意の純度は高く、それ故に、嫌悪に淀みながらも、心は僅かな羨望を、彼等の悦びに抱く。暗く、醜悪に蠢く闇を象徴する、幻想の美しさ。それは退廃に崩れ、おぞましく歪んだものだけが持つことを許された、凄絶な美。物語に充満する瘴気が、存外に快いその痛みが、己が身を縛る現実という枷を溶かし、蕩けそうなほどに甘い毒を、注ぎ込んで行く。