綺麗さなど欠片もない。綺麗に溶けて行く類のものではない。根深く巣食い、未だドロドロと滞るもの。悲しみも葛藤も痛みも、居心地の悪さも、後ろ暗さも。だが、それでも、遡り続けるほかない。記憶が、思いが、流れ込んで来る。流れ込んで行く。境目を失い、混ざり合い。徐々に、少しずつ少しずつ、解けていくような。そこに在るべき姿を見出すよう、注ぎ込むよう、語り…その果てにやっと、心地よさを見つける。
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重ねてしまう過去。未だ熱を保ったまま、薄れる事もなく息づいている過去の事。屈折した愛情、ぐずぐずと暗い悔恨、目を背け合い続けていた時間の痛み…ヒリヒリと灼けつくような。あまりにも狭く、近いものであるが故に、重く、根深いもの。それでも、重ねてしまう。そのすべてが”あなた”の愛おしい生に繋がっていると信じ。反芻し、紡ぎ上げた場所に、”あなた”がいると信じ。
綺麗になど終われる訳もなく、心地よさへとたどり着いてなお、完全などない。計り知れぬ程の苦しみを要する試み。しかし、その強さ、その切実さ…心を惹きつけてやまない。寂しくも温かな光に満ちた終わり、こみ上げるのは慕わしい安堵。