人を、その癖を、その容貌を、その生を、すべてではなく、ごく僅かな違和感(通常に収まる程度の)を含む一端一端を、網羅する際の綿密さとは異なる執拗さを以って、彫り続ける。白々しいまでに端正に、安易な綻びを作る事もなく。何一つ無駄なもののない空間に響く音は常に硬く、静かであり、美しい。不穏を捉えてなお保たれ続けるその静寂、声を上げるよりも強く、蠢き始めた密やかな欲望を、鮮やかに映し出すような。
不可解な拘り、背徳的な欲望…いずれもそれのみで在る訳ではなく、それもまたごく僅かな違和感(通常に収まる程度の)を含む一端一端の内に紛れ込んでいるもの。不意の台頭はそれを記す言葉でさえ、他と変わらぬ端正さを備えたものであるが故に、かえってその不気味さを増す。酷く官能的な不気味さ…。
始めは微かな不気味さを捉えていただけ。しかし徐々にその大きさを、その強さを、内にてのみ密やかに育まれるものであるが故にその純度を増し、鮮やかに、濃密に満ちて行くそれに、魅入ってしまう。追ってしまう。目を逸らす事の出来ぬ歪み。それでも、響く音は常に硬く、静かであり、美しい。