2015年11月1日日曜日

津島佑子「我が父たち」を考える

祖母が死に、祖母の家を離れる事で、母は祖母より逃れ、娘としての生よりも逃れる事が出来た。しかし、辿り着いた場所で、自身の娘達を見た時、母は気づく。どれだけ足早に駆け出そうと、自身の娘達より逃れる事は出来ない。娘としての生を終えた今、自身を待つのは娘達の母としての生である事に。
母は自分自身が母である事に、娘達は母が走り出してしまった事に、それぞれ怯え、戸惑う。反発し、目を背け、それでも母と娘達は互いより離れる事が出来ない。決して広くはない場所で、隙間を埋め合うよう、生きている。際立つのはその父達の異物感。子を成し、娘達を残し、去って行った父達の。
新たな場所において執着した男は、惑いより逃れるために欲したもの。母も、娘達にとっても。自分達の生活を続けるため、罵り、嘲笑い、嫌悪し、執着した男。拒まれた時、彼女達は男が自分達を通り過ぎて行く事を許そうとはしなかった。通り過ぎるのではなく、何かを残して去って行った父達のように。彼が何かを残して行く事を、彼女達は欲したのではないか。
不器用で、拙くて、危うくて、不安はどこまでも付き纏う。だが、甘えにも覚悟にも似たささやかな報復には、確かな痛快さを覚える。


我が父たち (講談社文庫)
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