2015年11月11日水曜日

リディア・デイヴィス『ほとんど記憶のない女』

切り取るべき(象るべき)物事の選び方、物事の切り取り方それ自体にまず魅力を感じる。「ピクニック」など最高。よくある事、ありがちな事と、(自分にとって)あまりにも身近過ぎるが故に、漠然と抱く雑感をも当然と、気にも留めずにいたような物事の、まとまりのなさを知る思い。転じてその侮れなさを知る思い。わだかまりや拘りと言った物事の、底知れなさを知る思い。転じてその厄介さを知る思い。
そう言った物事を選び切り取る事で生まれたお話の、出口のない悶々具合。埒の明かないぐるぐる思案、脈絡を持たぬ広がり…寄り添いやすいが何だか妙に気恥ずかしい。ありがちな事にせよ拘りにせよ、多少なりとも心当たりがあると言うか、自分自身も似たようなものを持っているせいか、そんな切り取り方をされてしまうと、何だか妙に気恥ずかしい。
そして同時に面白い。気恥ずかしさと同時に感じる可笑しさもまた見逃せなかったりする。気恥ずかしさ同様、自分自身の心当たりによって可笑しいと感じるのか。含みたっぷり、物事の皮肉めいた引き伸ばし方であるとか、掘り下げ方であるとかが、或いは一打で決める際の力強さであるとかが、大変面白いものとして感じられる。よく知っているものの馴染みではない方の顔、平素は潜ませるべきとされる方の顔のアップ。その切り取り方象り方で現れた顔との思わぬ遭遇の面白さ…何と言うかこう、真顔で突然可笑しな事を言われた瞬間のそれに似た、思いがけない面白さがある。あれをこれをそう書くのかと、噴き出したり感心したり、心弾みっぱなし。



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