2015年11月15日日曜日

津島佑子『黙市』

何か、満たしてくれるものを、孤独を埋めてくれる存在を求め、縋り付く。在るべき場所、在るべき現実…自分一人では抱え切れぬと。逃れるため、受け入れぬため、執着し続ける。子ども達を見失ってしまう事をも同時に恐れながら。繋ぎ止めようと身勝手な葛藤をぶつけながら。遠い欠落と軋轢の痛みを、向き合うべきもの達の痛みを拠り所にし、生き続ける。
今なお色褪せぬ苦しみを。息苦しさを。葛藤を。向き合うべき存在を。飲み込まれてしまわぬよう、目を背け続けて来たその孤独を。自分自身の孤独の中に沈み込んでいてさえ、確かに感じ続けていた息遣いを。逃れようと飛び出しても、決して忘れ去る事が出来なかったもの達を。夢はどこまでも暗く、残酷に心を象る。
〈私は私で生まれ変わることのできないひとりの人間なのだ。〉
〈なにか、私を救ってくれるものを求めていた。なにもかもが、現実に起こるべきことではなかった。〉
〈母にも、娘にも、赤ん坊にも泣きわめいていてもらいたかった。〉
あまりにも身勝手で、あまりにも情けなくて、けれどあまりにも切実である言葉の数々。込み上がるそれは共感とは別の、もっと不愉快で、もっと疚しくて、ヒリヒリと灼けつくような痛みと嫌悪を伴う理解。愚かしい。幾度となく思い知る様。救いなど現れる事はないのだと。淡い期待を抱く様。崩れ、這うように、それでも足掻き続ける様。見苦しいし、痛ましい。けれど、どうしても離れる事が出来ない。

ずっと惹かれ続けている。自分自身の生に対し、自分自身の選択に対し、どこまでもひたむきである事に。どこまでもひたむきに向き合い続けている事に。懸命である事に。



黙市(だんまりいち) (新潮文庫)
津島 佑子
新潮社
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