聡いと思う。森茉莉は聡くて、ずるい。書くための目、元来のもの、書くための目で見たもの、溢れ出るもの、象る言葉。繋ぎ目の見当たらぬ世界、繋ぎ目の、様々な物事の無粋さより逃れた世界。明瞭である事よりも、茫洋としたものの内にある魔を愛する、その愉悦のように。妖しい靄に覆われ、甘やかに蕩け、蠱惑的に息づき。すべてほんものになってしまう。喜びや愉しさだけではない。激しさも熱も、淡く曇る硝子の内にて蕩け、美の世界に相応しい、ほんものになってしまう。
だいぶ回りくどい、と言うよりは皮肉と歯痒さにたっぷりと言葉を尽くした多分に親愛の念を含む三島評が好き。甘えと畏敬、僅かな悔恨、そして(その生と死への)切ない哀しみとが混ざり合ったような、濃密な室生犀星評が好き。魔を秘する美の色香…風刺や悪口でさえ、愉悦を求むる豊かさにくるまれ、魅惑的にくゆる。