2015年11月28日土曜日

笙野頼子『なにもしてない』

その心を蝕むよう鬱積する後ろ暗さを生み出したもの達…身勝手な要求、腐敗し切った因習による抑圧。執拗に注がれ続けて来た悪意。何やら凄いものが充満している。蠢いている。滞っている。現実をより醜悪に歪めて象る夢。より濃さを増すよう、苦しみや痛みやわだかまりの形を変え、凝縮し。
幻覚や夢想に興じ、内に閉じ籠る形での逃避。段々と酷くなる症状さえ利用し、大いに遊ぶ無茶な逃避はしかし、現実を生きる為に必要としたもの。溢れ落ちそうな自分自身を守り、とどまる為に必要としたもの。陶酔や耽溺よりも随分と切実であり滑稽であり、そうする事で、閉じ籠る事で、正気を保っているような。
分厚い壁。それは強固と言うより、何だかブヨブヨしたものなのではないかと思う。酷薄にも皮肉的にもおぞましくも情景を変えて見せる為に。それがあるからこそ生じるズレ。自らと外との。その可笑しさ。暗く不快に渦巻くもの達と混ざり合い、快い波と化す。



なにもしてない (講談社文庫)
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