2015年12月12日土曜日

矢川澄子『わたしのメルヘン散歩』

物語の事。物語を生み出したものの事。本の中の子供達の事。慕わしい友を語るように。遠く近しい友の、愛おしさを語るように。あくまでもささやかに、身近に。それ故にすんなりと受け入れる事が出来る、素朴さを以て。静かで、柔らかで、心地よい愛に満ちている。
綻びる事なく、綺麗にまとまる思い。丁寧に、丹念に咀嚼し、嚙み砕き辛い齟齬や相剋をも(その嚙み砕き辛さごと)沢山堪能し、幾度と無く反芻し続けたために。豊かで鮮やかで、しなやかなものとなった思い。論ずると言うよりも、何かこう、すべてを包み込むような。その感嘆、その思案。眺めるのではなく、寄り添う為にいでた言葉であるような。

ヨハンナ・シュピーリに示す理解、擁護よりも更に朴訥なそれ。ジョルジュ・サンドの生にこぼす嘆き、暗く澄んだ哀しみを含むそれ。セルマ・ラーゲルレーヴを形作るものの考察、掬われぬ苦しみを思い遣る繊細さを備えたそれ。矢川澄子自身の世界(その色合い、その脆さ、その危うさ、その綺麗さ、その清澄さ、その哀しさ)をも感じさせ、特に印象深い。



わたしのメルヘン散歩 (ちくま文庫)
矢川 澄子
筑摩書房
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