2018年5月13日日曜日

『猫の文学館 Ⅰ・Ⅱ』

野溝七生子が際立っている。一際煌めいている。何か、酷く妖しく香っている。惚気が化けたもの。豊艶に、濃密に、強く、重たく、熟れ、進化し、何か、魔物めいた存在に、惚気が化けたもの。蜜月めいた甘やかさ。秘め事めいた熱っぽさ。ねっとりとしている。ここだけ何か、世界が異なると言うか。異界めいた色彩。見てはいけないものを見てしまっているような、後ろ暗い喜びを感じる。行きたいのはやはり鴨居羊子の世界。猫だけでなく犬もいます。ろばもいます。鴨居羊子なので当然。カラスもいます。アヒルもいます。気ままで楽しくて鮮やかで穏やかで伸びやかで美味しそうで、うっとりする。
Ⅱは何と言っても吉田知子が恐ろしくてよい。磨かれてもおらず、洗われてもおらず、取り繕われてもおらず、隠されてもおらず、剥き出しのままの、泥のついたままの、粗雑なままの。荒く、粗く、汚くて、醜悪に臭う、平常。怖い。それが平常と化している怖さ。明らかに近い所にそれがあると言う怖さ。そして猫は平然と、猫であるまま…。



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