高橋たか子「病身」が目当て。際立つのは相手の何もかもを知り尽くそうとする女性の貪欲さ。自分にはわかり得ぬものであるが故に、知りたいと欲する。その痛みも。その色も。その形も。直に触れ、直に感じ、確かめる事が出来ぬ類のものであるが故に。知りたいと欲する。その内部。茫漠と広がるその内部を。茫漠と広がるが故に。見尽くしたいと。知り尽くしたいと欲する。熱っぽく、執拗に。知り尽くすまで、苦しみは続く。知り尽くしたいと欲するものがある限り、満たされる事はない。求め続ける。凄まじく強欲な。高橋たか子その人の貪欲さ(高橋たか子が最後まで持ち続けたもの、高橋たか子の真髄とでも言うべき貪欲さ)が重なる。
大庭みな子「首のない鹿」も印象的。腐り切っている。濁り切っている。溜まり切っている。飢えた様。狙う様。自身の内部に滞る衝動や苦痛で住処を満たす様。覆い尽くす様。離さぬ様。愉しむ様。醜い。あまり見ていたくはない。すぐに立ち去りたい。高樹のぶ子「浮揚」は再読。抜群の艶っぽさ。世界そのものは狭く、矮小なものであるはずなのに。汚くも、見苦しくもない。なみなみと満ち、驚く程に豊潤。驚く程に深い。伸びやかに泳ぐ怖さと喜びを感じる。