2018年8月29日水曜日

武田花『季節のしっぽ』

荒れ果てたまま、埃だらけのまま、汚れたまま、壊れたまま、伸びっぱなしのまま、ごちゃごちゃの、もさもさのまま、動かないまま、おかしなまま、無言のまま。とにかくそのまま、ただ自分であるのみ、それ以上でもそれ以下でもないものたちばかりあるし、いる。実に不穏で、平穏で、静かで、猥雑で、長閑であるなあ、と思う。もわもわっと、匂ってくる。主に鼻と皮膚で感じる。暑さも、眠たさも、冷たさも、不安も、楽しさも。気だるいような、物憂いような、寂しいような、嬉しいような、馴染み深さとともに、もわもわっと、匂ってくる。
詮索したり、深入りしたり、追っかけたり、やっきになったり、善し悪しや正否を判断したり、変に手を加えてみたりする事のなさ。立ち上って来るのはベタベタした所のない、小ぶりであっさりとした、好きや嫌い、気持ちいいや気持ち悪い。その嬉しいこと。安心する。ただ自らであるだけの、それ以上にもそれ以下にもならない、なろうとしないものたちばかりが登場する花さんの本を読むと。
クリスマスの仮装パーティー、笑う。毛皮のコートの話、笑う。不思議な人が不思議なまま、いる。時には近付いて来る。花さんは憮然とするような目に合う。申し訳ないけれど、妙に可笑しい。花さんの反応も含め。悲しいくらいに、可笑しい。



季節のしっぽ
季節のしっぽ
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武田 花
角川春樹事務所
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