2018年12月8日土曜日

武田百合子『日日雑記』2018年の記録

武田百合子の言葉の前ではなにもかもが色褪せてしまう。なにもかもが無力化する。素晴らしいなあと思う。生きている事のごたごた感…声、音、匂い、色、動き、生々しく、艶めかしく、立ち上ってくる。余計なものを伴わず、声それだけ、仕草それだけ、素ぶりそれだけが、浮かび上がってくる。何かを、よしあしを判断する必要がない分、より生々しく人を感じる。空も月も日差しも、家も廃屋も路地も路地裏も、花も生き物も、道具も置物も廃棄物も、食べ物も飲み物も、艶めかしく、存在感を以って。あらわれてくる。その慕わしさ、その快さ。
その是非や善し悪しを考える必要なく、会話や仕草、素振りや表情だけで、人それ自体を感じる楽しさ。人や生き物や自然の、その姿や様相で、生きている事、そこに在る事それ自体を感じる嬉しさ。生きている事の、感じ取る事の、それで全部、と言うようなもの。繰り返しであるものと、一度きりであるものが、混在している、と言うような。食べるや出す、喋る、眠る、などの行為が、区切りを持たぬ一連の流れとして直結している、と言うような。生きている事の、諸々のすべて、と言うようなもの。たくましくて、図太くて、うるさくて、さり気なくて、悲しくて、寂しくて、嬉しくて、可笑しくて、緩やかで、突然で、当然で、変えようのない、変わりようのない。それで全部、と言うようなもの。武田百合子の描写する人や動物や風景。ずっと読んでいたくなる。

日日の会話のとりとめのなさ、その話題と言い回しの唐突さ。とてもおかしくて、楽しい。仕草や動きや表情、声色を表す言葉の、多彩である事。音や色や味や匂いを書き留める言葉の、雑多である事。素晴らしいなあと思う。



日日雑記 (中公文庫)
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武田 百合子
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