2018年12月15日土曜日

武田花『嬉しい街かど』

この居心地のよさよ。人がまばらで、忙しくなくて、取り繕ったりしていなくて、犬や猫や鳥などがいて、整えられていなくて、同じものがなくて、けれど見た事があるような気もして、何だか妙に気になって、可笑しなものも、奇妙なものも、不可思議なものもあって、それも全然特別ではない風にあって…長閑だ。
可笑しなものが可笑しなまま、奇妙なものが奇妙なまま、そこに在り続けると言う長閑さ。犬も猫もアヒルも、人も、家も店も建物も、廃屋も廃棄物も、空き地も跡地も、雑草も花も、自らのまま、それ以上でもそれ以下でもない、自らであるまま、そこに居続けるという長閑さ。
花さんはいつも、その風景に、諸々の人や物や生き物が自らのまま生きている風景に、紛れ込むと言うか、馴染むと言うか、うまく、ごく自然に溶け込んでいるように思える。花さんと言うよい眼を通して、自分はその、可笑しさや奇妙さが素の姿のまま存在している長閑さと言うものを、存分に楽しむ次第。
花さんはいつも、変に絡まず深入りせず、勘繰らず詮索せず、ちょうどよい。変に喋らず騒がず、引っかからずベタつかず、心地よい。気になって、近付いて、気に入ったり、逃げたり、ついて行ったり、普通にする。特別な風にではなく、する。怖い事も、不思議な事も、変てこなものも、当然にあって、ふらふらと、楽しい。


嬉しい街かど
嬉しい街かど
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武田 花
文藝春秋
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