鮮やかで多彩で濃厚な好悪の表現。明確な好悪それ自体。好を読むのも悪を読むのも楽しくて仕方がない。褒めも悪口も素晴らしく楽しい。森茉莉がすべてを本物にしてしまう。美も醜も、森茉莉が本物にしてしまう。その眼と言葉によって。色も香りも形も輝きも暗さも。悲しみも怒りも嘆きも喜びも幸せも。すべて本物にしてしまう。淡く妖しい靄でくるみ、蠱惑的な、本物に。茫洋としていて、魔を秘め、底が知れず、その事が、そのまま凄みとなっているかのような、森茉莉の眼と言葉によって。すべてが本物となる。
月並みだけれども、森茉莉が生きていたら、今、誰を褒め、誰を嫌うだろうか、何を愛し、何を好むだろうか、どこによさを見出すだろうか、どのようにやっつけてくれるだろうか、など、あれこれ考えながら読む。いつ読んでも今、森茉莉にいて欲しいなあと思う。森茉莉がその言葉を以って語るのに相応しい人や物事を、今の中から考える難しさ。
森 茉莉
筑摩書房
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