ざらざらとした長閑さも。爽やかさのない充実感も。辛辣な皮肉のそつのなさも。息苦しくはない狭さの中でのまとまり方も。小粒の笑いを誘う、からかいと生真面目さを含んだ言葉を喋る声色も。厭世的でも虚無的でもないダラけ方も。主人公が測る異性との距離感も、自らの性との距離感も。その手のもののこじれが放つカビ臭さを、そもそも寄せ付けない立ち位置も。それを一蹴する足の、見苦しくない振り方も。若さを特権的なもの、才能のようなものとして思い込んでいるからこそ生じる幼い自惚れを、それをそういうものにしか過ぎないことだと当然わかっていながら、持っている辺りも。そしてそれを持っていることをとりあえず自覚している辺りも。少女小説に対する〈おかえし〉としての少女小説具合も、その平和な結末も。
すべて狡い。何もかもが堪らなく心憎い。
金井 美恵子
河出書房新社
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