2015年6月14日日曜日

高橋たか子『亡命者』

死の深さで生に在るものの苦しみ。自らのものではないはずなのに、自らの内より、湧き上がるよう浮かぶ、情景、思い。魂に刻まれた記憶、感覚とも言うべきものの存在に触れる。自らの内に沈み。自らの深みを、自らにさえ見通せぬ暗がりを、黒々と炎渦巻く、地獄のようなその凄惨さを見尽くそうと、沈み、彷徨う。すべてを見尽くし終えた先の、明るさに辿り着くため。いく度となく、国境を越え越え、亡命し続ける。
充足と迷い入り混じる清貧の日々の中、巡り会えた道。そこは、向かうべき場所ではなく、帰るべき場所。憂い晴れたような力強さ。だが生に在る限り、苦しみはつきまとう。ただひたすらに進むものと、後を追うもの。両の口を、心を借り、醜さも、執着も、躊躇いも、温かな思いへの懐かしさも、すべて振り払い記憶に変える、圧倒的な力の存在を、書き記す。
自らより多くのものを削ぎ落とし、捨てて行く厳しさ。自らの深淵より目を背けない、直向きさ。言葉にさえ無駄はなく、研ぎ澄まされたような鋭さ、清廉さがある。進み続ける姿の、切実さに心惹かれながら、届かぬその道の、深さを思う。



亡命者
亡命者
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高橋 たか子
講談社
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