2018年10月14日日曜日

笙野頼子『笙野頼子窯変小説集 時ノアゲアシ取リ』2018年の記録

窯変の美。窯変の凄み。稀有で、貴重な。窯変の面白さ。ぐるぐる、ぐつぐつと、回り、巡り、滞り、燻り、深まり、溜まって行き、醸し出されて行く。昇華とは異なるそれ。強化とも、破壊とも異なるそれ。読む事で感じる愉悦の種類も異なる。常よりももっと薄暗くて、どんよりとした、重苦しいもの。けれど確かに、それでも確実に、愉悦である感覚。
絶望とも諦めとも、虚しさとも足掻きとも異なるようなそれ。闘いとも争いとも、怒りとも抵抗とも異なるようなそれの稀有さ。違う時空に在ると言うか。どこにも属さない所に在ると言うか。唐突さに欠ける、穏やかな(けれど残酷な)突然変異の只中に在ると言うか。異質な作品群。稀有で、妙な具合に忘れ難い。低音で、不安で、妙な具合に忘れ難い愉悦。常よりも鈍く、茫漠としていて。変化の只中にあってさえ。常よりも静かで、ぼんやりとしていて。身構えもせずに、留まり続けていて。抗いもせずに、晒され続けていて。ただ小さく、推し量り続けてはいた。記録し続けてはいた。動き続けてはいた。あのまま沈んでしまわなくてよかったと思う。



時ノアゲアシ取リ―笙野頼子窯変小説集
朝日新聞出版 (2013-06-10)
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